大仏殿のすぐ横、崖にぽっかりと口を開けた小さな横穴。これまでその場所には如意輪観音様が静かにお祀りされ、柵が設けられて中には入れないようになっていました。足元には美しく玉石が敷かれ、いつしかその上に土砂が積もり、すっかりその姿を隠していたのです。
ところが昨年の秋、ふと「この中には、何かあるのではないか」と胸騒ぎのような気持ちに駆られました。如意輪観音様には別の場所へお遷りいただき、思い切って柵を外し、土砂を手作業で掘ってみることにしました。
すると、驚いたことに地中から水がじわじわと湧き出してきたのです。これはただ事ではないと感じ、さらに手彫りで掘り進めましたが、全体の3分の1を掘ったところで素人の力では限界がありました。そこで、専門の業者さんに協力をお願いし、残りを丁寧に掘り進めていただいたところ……思いがけないものが姿を現したのです。
その中ほどに、深さ1〜2メートルほどの“竪穴”があり、そこから清らかな水がこんこんと湧き出ていました。まさしく、安桜山の伏流水――山の懐からの恵みでした。
さらに調べを進めていくと、なんと158年前の古い境内図に、この場所の記録が残っていたのです。そこには、しっかりと「岩窟龍神泉(がんくつりゅうじんせん)」と記されていました。
かつての参拝者の方々が「ここでお銭を洗うと良い」と話していたことを思い出しました。長い年月を経て忘れられていた霊泉が、今まさに再び姿を現そうとしています。
現在はまだ少し濁りがありますが、今後も丁寧に中の土を取り除き、清らかな透明な水が流れるよう整えていく予定です。やがては皆さまにもこの場所で龍神さまのお恵みを感じていただける日がくることでしょう。
自然の神秘と、寺の歴史が重なりあう小さな奇跡。どうぞ、これからの変化にもご期待ください。